Wi-Fiオーディオ「WA1」の可能性
users気づけばWi-Fiオーディオ「WA1」のモニター期間ももう終わりが近づいてきました。モニター期間が終了しても製品は手元にありますし、むしろ発売日を迎えてからのほうがWi-Fiオーディオに関する情報が役に立つのでしょうから、これからも気づいたタイミングでちょくちょく書いていきたいとは思いますが、これまでのエントリーが少々技術寄りだったので、今回はまとめがてら、WA1の意義やその可能性について考えてみたいと思います。
現段階で何ができる、できないはさておくとして、WA1が何を目指しているかということを考えるならば、かなり端的にまとめてしまえば「家庭内ホームネットワークにある音楽を、家庭内のどこからでも場所を気にせず楽しめる」ということでしょう。基本的にはPC内の音楽が中心ではありますが、DLNAに対応したNASやサーバーを導入すれば、PCに限らず家中の音楽をワイヤレスで楽しむことができます。
ただ、このコンセプトそのものが非常に新しいかというと、実はそうでもありません。勉強会では「ヤマハの製品に似ている」という話が出ましたが、私が連想したのはどちらかとえいばサン電子の「BiBio」です。
SUNTAC BiBio 据置型 MP3 デジタル オーディオ プレーヤー
http://bibio.jp/
BiBioの名を冠した最初の製品はインターネットラジオの再生が中心でしたが、その後2004年にはネットワーク経由でPCなどの楽曲を再生できる「BiBio wGate」、逆にHDDを搭載し、本体に保存した楽曲をPCなどで再生できる「BiBio Jukebox」の2製品が登場しました。wGateのコンセプトはかなりWA1に近いものがあります。
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また、同じソニーグループから製品が発売されている「ネットジューク」なんてのもあります。基本的にはミニコンポですが、DLNAなどに対応し、PCの楽曲をネットワーク経由で再生できる点はWA1と共通していますし、こちらは専用の音楽配信サービス「エニーミュージック」から楽曲を購入できる、なんて特徴もあります。DLNA対応コンポはデノンやビクターからも発売されていて、こういう「ネットワーク経由で音楽を楽しむ」という分野は、目立たないながらも少しずつ動きがあるのです。
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ではWA1はこれまでの製品と何が違うのかというと、個人的に思うのは「オールインワン」「持ち運び」、そして「タイミング」にあるのかなと思います。
BiBioなんかはかなり面白い製品でしたが、スピーカーが別途必要だったりと、その製品だけ買ってきてどうにかなるものではありません。逆にネットジュークはMDなんかもついていてオールインワンと言えばそうですが、自宅にすでにコンポを持っている人だと機器のジャンルとして重複してしまうから手を出しにくい。WA1の場合、コンポとはまた違う価値を持った製品ですし、スピーカーも搭載しているから、ネットワークにさえつなげれば新しい価値を手軽に導入できます。
また、BiBioやネットジュークは基本的にコンポのような据え置きをイメージしているのに対し、WA1は家の好きなところに置いて下さい、というスタイル。他のブログでも指摘されているように、デフォルトでバッテリースイッチがOFFになっている(製品出荷版では変更の可能性あり)という問題はあるものの、設定さえ完了していれば家の中の好きなところで音楽を楽しめる。家の中という狭いエリアではあるものの、ロケーションフリー的な要素も持っています。
そして何より大きいのが、こうしたネットワーク製品が受け入れられる環境が整いつつあること。iPodの普及によって、音楽の蓄積場所が家のCDラックではなくPCの中、という人がかなり増えてきていますし、ブロードバンドや無線LANの導入率も高まっています。ゲーム機もネットワーク対応が標準化しつつあり、ニンテンドーDSを使って気軽にワイヤレス通信を楽しむ人も増えてきました。テレビや録画番組を外出先で楽しむ「ロケーションフリー」も大ヒットし、ネットワークへの抵抗感が薄れつつあるように思います。
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自宅の離れた場所やインターネットを経由して離れた場所の映像が見られる画期的な商品です
PCの中に大量の音楽を保存する環境、そしてネットワークの普及率。この2つの要素が揃いはじめた今こそ、WA1のようなネットワーク機器が理解されやすい環境になってきたとも言えますし、単にコンポがネットワーク対応したというより、WA1のようなまったく新しい形で製品を登場させたほうが理解ははやそう。コンポだったら今持っているコンポをどうするか、なんて悩みもありますが、WA1なら今の家の中にそれを代替する機能がないですから、値段などの問題はあれ導入はしやすい。
映像の歴史をひも解けば、無料で見られるテレビを録画できるテープメディアが生まれ、そしてテープはランダムアクセスが可能なDVD/HDDへ移行。そして今ではネットワークを介し、外出先からでも楽しめるロケーションフリーの時代がじわじわ浸透しつつあります。
音楽も同じことで、テープメディアがCD/MDになり、それがiPodに代表されるHDD/フラッシュメモリ形のプレーヤーが主流になりつつある。外出先に関してはiPodのようなプレーヤーでほぼ要件を満たすと思いますが、自宅に関しては「iPodを使うためにリッピングしてPCに保存した楽曲をそのまま聞きたい」というニーズは当然生まれるでしょう。WA1の目指す方向は、今後音楽を楽しむ環境でも必ず訪れるジャンルなのかなと思いますし、期待している分野でもあります。
ただし、そうした分野で強烈な存在感を得るためには、初号機たるWA1では力不足感が否めないのもまた事実。ネットワークの設定こそインストールCDを使えばカンタンですが、肝心のVaio Mediaの機能では有料購入した音楽も聴けないし、NASに保存した楽曲も楽しめない。プレイリストの仕様に関してもソフトごと一長一短で、「Vaio Mediaさえ入れておけば問題なし!」とは言い切れないのが辛い。
MDの座を駆逐して強烈な存在感を見せたiPodに関していえば、iTunesをインストールし、iPodをPCにつなぎさえすればとりあえず一通りのことはできました。PC接続とネットワーク接続ではその難しさが違うのはもちろんですが、本気で普及を狙うのなら、誰にでもカンタンに設定できて使いこなせることがとっても大事だし、現時点でのWA1は「わかる人には便利な存在」どまりのように思います。
しかしながら、その魅力が理解できる人にとってはかなり便利な存在であることもまた確か。家で音楽を楽しむ習慣があり、PCに大量の音楽を保存している人であれば、わざわざCDやMDを入れ替えたり書き込んだりする必要がいっさいないWA1は、CD/MDからiPodへの変化に近い変化があるかもしれません。うちも設定や仕様の確認にはてこずりましたが、機能を把握さえしてしまえば、家の中で音楽を楽しむのには非常に便利な存在になっています。
期待したいのはWA1の型番。「Wireless Audio 1」の省略であるこの記号、1であるからには2も考えているはず。新しいとはいわないまでも、まだブレイクしていない市場で初めて投入した商品だけにいろいろ悩みや課題もあったと思いますが、ぜひこのノウハウを生かして、さらに魅力を増した「WA2」の登場を期待したいと思います。
そんな「WA2」が登場するとしたら、お願いしたいのはまずネットワーク設定のさらなる簡便さ。バッファローのAOSSのような仕組みもありますが、おりしもWi-Fiが自ら無線LANの設定プログラム「Wireless Provisioning Service(WPS)」を開始したので、こういう標準的な仕組みを実装してもらえるとありがたい。そして「これ1つでネットワーク機能は何でもOK!」というほどまでにVaio Mediaを高めてほしい。できればSonicStageのインストール必須もはずしてもらう方向で。
さらにその先は、家庭内のロケーションフリーで留まっている状況を宅外まで広げてほしい。家に保存しておいた楽曲を、外出先からダウンロードできる、というような。著作権うんぬんで難しい話だとは思いますが、ワールドカップ放映権の問題から「海外で日本のテレビが見られる」ことを問題視されていたロケーションフリーは、いつの間にか当たり前の存在として認知されています。
基本的に見ることが無料のテレビに対し、ラジオなどを除けば有料が前提の音楽では、ロケーションフリーよりもさらに難しいかもしれません。しかしロケーションフリーはその壁を乗り越えてきた。自宅から取得した楽曲はきっちり暗号化しておき、対応製品以外からは持ち出せないようにすればいいし、そういう場面でこそのDRMにも思います。ネットワークを使った音楽の楽しみ方というのは、何も有料の音楽配信だけではないと思うので、WA1以降もWA1以外にも、こうしたジャンルの製品の展開には注目していきたいと思います。
勢い先行の長文すみません。